基調講演

サステナブルな課題に挑むコミュニケーションデザイナーたち

変革をあおり、企業文化に立ち向かい、持続可能な未来への道筋を築く。それは、直接、コミュニケーションデザイナーと結び付く価値観ではない。しかし、地球温暖化を黙殺する政治家や、環境対策を重荷とする企業が 多い中で、コミュニケーションデザイナーが、革新的なサービスやサステナブルなデザインによる解決策を導き出している。ここに、デザイン思考によって、今日的課題を個々の場所や実情に応じて解決している3つの事例を紹介する。(※12月25日の国際若手デザイナーワークショップ・公開プレゼンテーションで行われた講演より。)

セバスチャン・ゲリーニ アルゼンチン・ブエノスアイレス グラフィックデザイナーのセバスチャン・ゲリー二は、既存のもの/ありふれたものを新たな文脈から捉え直し環境への負荷を低減する提案を行っている。建築業界に向けて発信された建築家グループとのコラボレーション「Ecomaterials展」では、地元のリサイクルステーションで拾い集めた廃棄物を美しく見せることに創意工夫を凝らし、ありふれたものへの人々の意識の転換を意図した。

Nau 米・オレゴン州ポートランド
衣料企業Nauは、デザイナーのグループによってウェブ基盤の店として2006年に設立された。オンライン販売に力点を置くことで、厳密な生産要件、再生素材の使用、NPOへの利益還元等の情報を顧客に発信。長く使用できる高品質の製品を提供することが、使い捨てを減らすと確信する同社は、顧客に長年に亘って製品を着用することを奨励している。 ただ、ウェブのみでは顧客と十全に結びつき得ないと考え、同社の製品と哲学を顧客に紹介する「Webfronts」(実店舗)を展開。訪れた顧客は店頭で試着し、購入商品は宅配とオンライン販売でサポートされる。 商品も店舗も可能な範囲で最もサステナブルな素材を使用しているが、同社をサステナブルなブランドとして確立させているのは、デザイン思考や問題解決思考である。その強みは、設立当初からデザイナー同士が対等な立場にあることである。コミュニケーションデザイナーも、製品、ブランド、オンラインや店舗環境、NPOとの連携や啓蒙活動まで、あらゆる局面に貢献できる。Nauは、価値観を共有する顧客に高性能な衣料を提供しながら、今も小売りブランドの意味を問い続けている。

Tricycle 米・テネシー州チャタヌガ
デザインコンサルタント社Tricycleが本拠を置く地域は、カーペット工場が集中する。この地域もカーペット業界も、特に進歩的と認識されてはいないが、同社は、業界に注目し、サンプル工程の脱物質化を促す幾つかのデザインサービスを創出し、業界の進化をリードしている。その一つ「SIM」は、コンピュータシミュレーションによるカーペットのサンプリングシステムで、インテリアデザインのプロが、最終決断用に実物見本を注文する前にパターンや色の選択肢を素早く正確に絞り込むことができる。また、「環境計算機」は、メーカーやデザイナーが、製品スペックを決める早い段階で環境負荷を予測する。
当初、コスト削減の面から、このサービスに着目したのは工場であった。そこで、同社は、中間ユーザーであるインテリアデザイナーをターゲットに「Erase Waste」キャンペーンを展開。カーペット会社へ見本帳を返送し、サンプル工程の脱物質化を働きかけるよう呼びかけた。キャンペーンで発信された情報や、同社のシミュレーションを非常にリアルと認めるデザイナー達の要望によって、カーペット会社は同社にデザインコンサルタントやSIMのカスタマイズを発注するようになった。今日、Tricycle社は、クライアントのニーズとマーケットを踏まえたデザイン制作物をカスタマイズし、幅広いデザインを提供している。

サステナブルデザインの未来
このように、にわかに、コミュニケーションデザイナーは特異な位置を占めはじめた。彼らは、取引先と消費者を取り持ち、行政/基準監督機関とそのクライアントを仲介し、製品の再利用やリサイクルの可否を決定する。こうした流れは、サステナブルデザインの未来が、物や生産プロセスの進化よりも、サステナブルな思考や様々なメディアを利用した分野横断的協同作業に大きくかかってくるであろうことを示している。社会や環境の変革に積極的に関わり、独自に新たな市場を開発し、建設的なインパクトを社会に与えようとするデザイナーたち。彼らの手で育まれていく「サステナブルな21世紀」が到来している。

Captions
「Ecomaterials」建築業界向ポスター
NAUの顧客は店頭のモニターでサステナブルな衣料生産のメリットを知る
カーペット見本によるゴミの量をデータで示した「Erase Waste」キャンペーン広告と不要な見本帳の返送用ステッカー Tricycle社は展示会でそのサービスを紹介し、メーカーと消費者の教育を狙った。顧客のNood社は、古い見本帳にステッカーを貼り製品仕様書、デジタル・印刷見本を入れて再利用するよう呼びかけた。
参考画像

エアリス・シェリン